【ケンタロウさん】スーパーの値引きシールには、誘惑と出会いがある。

スーパーの値引きシールには、誘惑と思わぬ出会いがあります。

ケンタロウさんの「ごくらくの食卓」(主婦と生活社)の「閉店間際」が面白いです。

値引きシールの誘惑

閉店間際のスーパーはいい
次の日まて残したくないステーキ肉や刺身が、「50円引き」「100円引き」なんていう魅力的なシールを何枚も貼られて、なまめかしく身をよじっている
その日限りの手作りドーナツなんかも「5個で300円」まで身を堕としながらも、粉砂糖をいっぱいまぶした体で、強烈に誘惑してくる
閉店間際のスーパーにはそんな楽しみがひしめいている

(20ページより一部引用)
 


 
値引きシールが大好きです。
おそらくみんな好きです。
嫌いな人はいません。
「たった50円引きかあ、もうちょっと引いてほしいな」と思いながら、買い物カゴに入れています。
「買い忘れはないかな」と店内を一回りしている間に、もっと安くなっていたり、どうしようか迷っていたお惣菜が他の人に買われていたり、ちょっとしたドラマです。

私がよく行くスーパーは、夜10時閉店です。
閉店ギリギリの時間に行くと、もうほとんど残ってません。
特に生鮮品の棚やケースはガラーンとしていて、欲しい物は何も買えなかったという時もあるほどです。
夜8時過ぎに行くと、すでに値引きシールが貼られている商品があります。
ただ、まだ割引額が低く、そこから時間と店員さんと他のお客さんとの駆け引きが始まります。
もう少し待てば、さらに値引きシールを貼ってくれる可能性もありますが、あくまでも可能性です。
散々待ったにも関わらず、結局そのままだったということもあります。
モタモタしていたら、他のお客さんに取られてしまうことだってあります。
「取るか取られるか」の半径5メートルの静かな戦いなのです。

バナナには要注意

こんなことがありました。

だいたいのスーパーは、入ってすぐの野菜売り場から始まります。
そのスーパーは、野菜売り場のところに見切り品のカートが置いてあるのです。
もちろん、必ずチェックします。
その日は、バナナがありました。
私は、大のバナナ好きです。
1日何本でも食べたいくらいに好きです。
遠くから見てもわかるくらいに、カートにはバナナが盛られています。
下の段にもバナナが乗っています。
他の野菜たちの肩身が狭くなるくらいの満員御礼状態です。
しかもどれも半額です。
買わないわけがありません。
ちょっと痛んではいますが、関係ありません。
とりあえずカゴに入るだけ入れました。
想像以上の重さになって、カゴの持ち手が「もう折れそうだっ」と悲鳴を上げているようでした。
慌ててカートに移し替えて、そのままレジに向かいました。
持てないほどのレジ袋を抱えて家に着いた瞬間、ハッと気づきました。
肝心のモノを何も買ってないのです。
私はバナナが好きですが、バナナを買いに行ったのではありません。
半額のバナナを見た瞬間、あまりのコーフンに鶏の手羽元やトマト、卵、豆腐、納豆、カレールー、全部飛んでしまったのです。
半額の値引きシールは、人の理性すらあっさりと奪い去ってしまいます。
「半額シール + バナナ」は危険です。
 

思わぬ出会い

値引きシールは、出会いのシールでもあります。
たとえば、豆腐です。
普段は安い豆腐を買っていても、ちょっと高めの豆腐に半額の値引きシールが貼られていると、急に買い物カゴに入る対象になったりします。
相場が安いものほど、品質と値段は比例します。
豆腐も、その例外ではありません。
数十円高いだけでも、味は全然違います。
封を開けた瞬間の匂いからして違います。
口に入れた時のボソボソ感がなくて、舌触りもとてもなめらかです。
半額だから買ってみたけど、あまりのおいしさにいつもの豆腐に戻れなくなってしまうのです。
「値引きシールって罪づくりだなぁ」とつくづく思う瞬間です。
 


 
生鮮品に貼られる値引きシールは閉店間際が多いですが、在庫処分など商品の入れ替えで割引きになっていることがあります。
たまに二度見するくらいの割引率になっていることもあって、買うつもりじゃなかなったのに、つい真剣に品定めしてしまいます。
いつもは素通りするようなオリーブオイルや調味料にシールが貼ってあると、ほぼ間違いなく手に取ります。
手に取るということは、気になっている証拠です。
子猫を抱くと、持って帰りたくなる気持ちと同じです。
「70%オフはデカいなあ」と心の中でつぶやきながら、頭の中でいろいろ計算が始まります。
「もしこの味が気に入ったら、次からも買うようになるよね…」
「買い占める?」
本気で買い占めそうになったところで、店内を回りながらクールダウンさせます。
またさっきの棚に戻ってきて、「今回はお試しで」と気になった調味料を1つずつカゴに入れました。
豆腐も調味料も、割引きがあったからこその出会いです。
「買うつもりじゃなかったけど、買えてよかった」があるから、スーパーは楽しいのです。

ドーナツの誘惑

その日限りの手作りドーナツなんかも「5個で300円」まで身を堕としながらも、粉砂糖をいっぱいまぶした体で、強烈に誘惑してくる

 

誘惑に負けた人

閉店間際

ケンタロウさんは、こう言います。

時間ないはずなのになぜか買いすぎる

「蛍の光」が流れているのに、じっくり品定めするのも、閉店間際あるあるです。