ケンタロウさんは、時々、赤胴鈴之助に変身する。

小林カツ代さんの「抱腹絶倒事件簿 空飛ぶつけ毛」(ベネッセコーポレーション)の「赤胴鈴之助事件」は、ケンタロウさんが赤胴鈴之助に変身する話です。

抱腹絶倒事件簿 空飛ぶつけ毛

(ベネッセコーポレーション)
発売日:1997年9月


赤胴鈴之助事件

ケンタロウさんが2、3歳の頃の話です。
ケンタロウさんは、テレビアニメの「赤胴鈴之助」が大好きでした。

きょうからボクはアカドーチュジュノチュケだ

そう言いながら、完全に「赤胴鈴之助」になりきっています。
それを知ったカツ代さんは、それをうまく利用して、いろいろとお手伝いをさせようと目論むのです。
案の定、その作戦は大成功します。
うまく引っかかったと言えばケンタロウさんに失礼ですが、面白いように言うことを聞いてくれたそうです。

ある日、姉のまりこさんも連れて、スーパーに買い物に行ったら、ケンタロウさんの姿が見えなくなりました。
ケンタロウさんは、しょっちゅう迷子になってしまう子だったようです。
本人もそれを自覚してたのか、迷子になったのがわかると、店員さんのところに行き、

ボク迷子になりまちた

と名乗っていくそうです。
探したカツ代さんも店員さんに尋ねてみると、決まって事務所の椅子にケンタロウさんが座っているのです。

でも、その日はいなかったのです。
カツ代さんは、まだ自分は迷子にはなっていないと思っているのではないかと推測し、探し始めます。
「ケンタロウ、ケンタロウ」と呼びながら探すのですが、見つかりません。
すると、まりこさんが思わぬヒントをくれるのです。

ママ、ケンタロウって言っても出てこないかもしれないよ
あかどうすずのすけって言わないと

そうです、ケンタロウさんは、赤胴鈴之助になりきっていたのです。
そうは言っても、そこは人もたくさんいるスーパーです。
やっぱり人の目は気になります。
「赤胴鈴之助」と呼ぶには勇気がいります。
でも、そう呼ばないと、きっとケンタロウさんは見つかりません。
意を決して、呼ぶことにします。

「鈴之助、鈴之助」
カツ代さんが鈴之助と呼んだのには、理由があります。
そういう名前の子だと思ってもらえるからです。
その微妙な心情を察知したのか、ケンタロウさんは出てきません。

またもまりこさんがアドバイスします。

ダメだよママ、赤胴鈴之助ってちゃんと言わなくちゃ

子供はストレートで、時に残酷です。

恥ずかしさをグッとこらえて言いました。

赤胴鈴之助っ、赤胴鈴之助〜〜っ

さすがに周りのお客さんも店員さんまでもがカツ代さんの顔を見てクスクス笑ったそうです。
今で言えば「クレヨンしんちゃーん」と叫ぶようなものです。

叫んだ甲斐があったのか、ケンタロウさんが出てきました。
カツ代さんが言うには、「最初から聞こえていたに違いない」そうです。

親の心子知らずですが、この日はケンタロウさんの「してやったり」でした。

赤胴鈴之助