【ケンタロウさん】本を作ることは、料理を作ることだ。

日本製鉄(旧新日鉄)の広報誌で、ケンタロウさんが本作りの話をしています。

紙の本が好き

僕が一番好きなのは紙。
書籍が好きなんですよ。
それは形に残るからとか、そんな理由じゃなくて、作り上げるまでの過程そのものが好きなんです。
出来上がった本は、もちろん売れてほしいんですけど、もう出来ただけで満足。
満足すぎてすぐに開けない時もあるくらい。

本は誌面のデザインとか、写真の撮り方とか、全部にこだわりますね。
言い方や程度は気をつけながらも、僕自身の考えは制作チームの皆さんにはっきり伝えて、その上でそれぞれの力を発揮してもらいます。
そうしたものづくりができるのはやっぱり本なんですね。

一部引用:下記ページより
トークスクエア 料理家 ケンタロウ氏「奇抜さや新しさより、“ふつう”を大事にしたい」|Nippon Steel Monthly|2011年7月号

本を作る

本はどうやって作られるのかが気になったので、3冊の本を読んでみました。

「本をつくる」という仕事

稲泉連
(筑摩書房)

紙や校正など本の製作に携わるプロたちのこだわりが感じられる本です。

装幀、紙、文字の詰め具合といったあらゆる本の要素が調和して、本は初めて一個の「作品」として自立するのであり、なかでも文字の形は重要な役割を担っている。
当たり前のことだけれど、ときに忘れられがちな大切な事実だろう。

引用:13~14ページより
 

校正・校閲とは、著者の書いた原稿を印刷された「ゲラ刷り」と読み比べ、誤りを正す作業のことを指す。
厳密にはゲラ刷りが原稿通りになっているかをチェックするのが校正、内容の事実確認や正誤を含めて調べ、全体の矛盾などを洗い出すのが校閲、ということになろうか。
単行本や雑誌が印刷されて世に出るまでのあいだに、著者は編集者を通して原稿のやり取りを何度も行なう。
そこで内容に関する様々な疑問を解消したり、構成や文脈、文法上の誤りを正したりするわけだが、その過程で入る第三者の「目」―それが校正や校閲と呼ばれる仕事である。
彼らの目を通して初めて見つけ出される誤字や脱字、思い込みやうっかりしたミスからなる表現上の誤りも多いため、今も昔も出版物の価値を高める上で重要な仕事の一つだ。

引用:97ページより
 

紙は木材チップからつくったパルプを抄き、水分を抜いて繊維を薄い一枚の板に変えた素朴な素材だ。
だが、ひとたび何かが印刷されると、紙には多様な価値が生み出され、製本されれば一冊の本へと変わる。
書くことが本に命を吹き込もうとする行為だとすれば、紙はその命を生むための土台だ。
そして、何も書かれていない分厚い見本帳の一枚一枚に開発者たちのドラマがある。

引用:133ページより
 

嗜好品である書籍に使われる紙は、版元や出版される本の内容、形態によって求められる質感が異なる。
文庫のレーベルや小説、ノンフィクション、 ライトノベル、学術書と使用される紙の傾向は様々だ。
文庫ごとに紙の色も黄色が強いもの、赤みが強いものと色合いも異なるし、村上春樹著『海辺のカフカ』などがそうであったように、初版部数が数十万部クラスの本ともなれば、特注の紙が新たに開発される場合もある。
面の触り心地、厚さ、色合い。
それぞれに流行があり、例えば近年では本を厚く見せられる「高高」の商品が好まれる。
ページ数が少なくても本を立派に見せることができ、それだけ定価を高く設定しやすいためだ。
出版社や読者の好みの変化に常に対応する必要があるわけだ。

引用:149~150ページより
 

紙には縦目や横目といった繊維の向きがある。
本来、その縦横の比率は一対一が理想だが、ここでも書籍用紙は例外的な商品だ。
製本された本は指で横方向にめくられるため、繊維が縦に並んでいた方が指先に引っかかり、ページがめくりやすいからである。

引用:152ページより


装丁を語る。

鈴木成一
(イースト・プレス)

装丁家の鈴木さんは、ケンタロウ本も担当してくれています。

装丁には正解がある、と私は思っていまして、原稿を読めば、「本としてこうなりたい」というかたちがやっぱりあるわけですよ。
個性をちゃんと読み込んで、かたちにする。
飾りで読者の気を惹くのではなく、その本にとっての一番シンプルで必要なものを明確に演出する。
そのときに、いかに自分が新鮮に思えるか、わくわくできるか、ですね。
そうやって作ったものって、やっぱりちゃんと伝わりますから。

引用:「はじめに」より
 

結局、装丁というのは、作家として自己表現するのではなくて、本の個性をいかに表現してあげるか、ということなんですね。
そしてその本にとってどういう見え方が一番ふさわしいかは、原稿を読むことでしかわからないんです。
その本がどういうメッセージを発しているのかを、ど素人の目線で読みながら、引っかかってくるものを探るわけです。
そしてそれをできるだけ丁寧に演出してあげる。
やっぱり読者も同じところに引っかかってくるはずだと思いますから。

引用:「おわりに」より


本の顔

坂川栄治
(芸術新聞社)

本はバッケージのサイズが決まっていて、その中に多種多様な情報が入っているユニークな容れ物です。
受け取る側も多岐にわたり、様々な人たちが趣味嗜好で必要に応じて個別に選別して手に取ります。
そのとき、読者が書店でたくさんの本の中から第一印象で選ぶのは、本の「顔」です。
それは初対面の人の第一印象となんら変わりません。
かわいい、個性的、頭が良さそう、ダサイ、楽しそう等々相手を見る視点は様々ですが、前情報や相手との会話で中身を吟味され、気に入られたり興味を示されなかったりするのは本も人も同じです。
だから本を多くの人に気に入られる「顔」にするというのは、結構大変なことなのです。
世の中美人ばかりじゃつまらない、玉石混交でいろいろな個性が交じってこそ美人も引き立つのです。
装丁もそれと同じで、様々な本の個性をいかに際立たせるかのために、そしてより広い範囲に受け入れられるために、無駄な部分をも魅力に変えるデザインが必要なのです。

引用:「はじめに」より

本ができるまでと料理ができるまで

「本の顔」に本ができるまでの流れが書いてあります。

本ができるまで

①編集者と打ち合わせ
②イラストや写真を考える
③装画の発注
④本文をレイアウトする
⑤カバーをレイアウトする
⑥カバーの用紙、加工、色を決める
⑦入稿
⑧色校正(初校)
⑨完成

料理ができるまで

本を作る工程と料理を作る工程はとてもよく似ています。

①どんな料理を作るかを考える
②使う材料や道具をピックアップ
③どういうシチュエーションで食べるのかを考える
④材料や道具の買い出し
⑤食器の準備やテーブルセッティング
⑥調理
⑦盛り付け後テーブルへ
⑧完成、食べる
⑨片付け

作るのが楽しい

本を作る流れを知った上でケンタロウさんの話を読むと、作っていくことが好きなんだなというのがよくわかります。
「チャチャッと作って、ハイ終わり」ではないのです。
1つ1つのことがストーリーになっているのです。
だから楽しいのです。
それは本を作ることも料理もまったく同じです。
「売れればいい」「おいしければなんでもいい」ではないのです。

採用案とボツ案

「本の顔」には、実際に採用されたデザインとボツになったデザインの両方が載っていて比較できるようになっています。
色だけが違うものもあれば、まったく違うデザインのもあって、デザインの思いが感じられてドキドキしてきます。

ケンタロウ本も、同じようにボツ案が大量にあるはずです。
ボツになるまでのラフ案も併せて見てみたいです。