「ケンタロウの基本のウチめし」は、レシピ付きの詩集だ。

「ケンタロウの基本のウチめし」(オレンジページ)が好きです。

この本はジャンルでいえば料理本ですが、レシピが付いた詩集です。


とにかく野菜を食べたいときに

たとえば、「とにかく野菜を食べたいときに」のエッセイはこんな感じです。

野菜はおいしい。
いつもいつも思うのだけれど、野菜は、優しくて、おいしい。
動物である肉や魚にはない、植物だけが持っている優しさが野菜には詰まっている。
だからあんまり余計なことはしないで、野菜に敬意をはらって、ガッと炒めるだけにする。
シャキッとゆでてあえるだけにする。
それだけでじゅうぶん。
優しくておいしい味になる。
もちろんにんにくと唐辛子でバキッと味をつけることもある。
それでもなお、あくまでも野菜は優しい。
肉や魚と一緒になったら、ごはんだってもりもり食べられる。
それでもなお、あくまでも野菜は優しい。
そういう優しさが自分にもあったらな、と思う。

引用:24ページより

完全に詩です。
国語の教科書にも載っていても違和感ありません。
「それでもなお、あくまでも野菜は優しい。」を2回使うのはまさに詩的表現です。

「ガッ」と炒める

「炒める」は、調理法の基本中の基本。
フライパンの中で素材が踊るあのかんじ。
あれ抜きでは料理ははじまらない。
フライパンがいきおいよくあおれないという人はヘラで元気に返したっていい。
シャキッとした炒めものは素材のダンスにかかってる。

引用:26ページより

フライパンを煽って炒めてる食材が動いても、それは踊っているわけではありません。
でも、「踊っているんだ」という目で見れば、炒め物は食材のダンスパーティーです。
これも詩です。

オーブントースターにはお世話になっています

オーブントースターにはお世話になっています。
コンロで他の料理を作っているあいだに、ちょっとしたグラタンや、
焼き野菜や、デザートが作れるのも、みんなオーブントースターのおかげです。
ジーッと赤くなって、ホンモノのこげ目をつけてくれるなんて最高です。
だからオーブントースター、おれは電子レンジよりも君が好きです。
一度ちゃんと言おうと思ってた。
いつもどうもありがとう。

引用:56ページより

オーブントースターを擬人化しています。
やっぱり詩です。

スマイルパン

練って練って、こねてこねて、焼いてふくらんでパンになる。
そんな素敵なことってある?
悲しいことやつらいことも一緒に、
こねてこねて、きつね色のパンになったらいいのにね。

引用:74ページより

詩としか言いようがない文章です。

キャラメルムース

キャラメル味はたまらん。
キャラメル、と聞くだけでうれしくなる。
そういうチカラがあるんだ。
キャラメルには。
人をうれしくさせるチカラ。
それをちょこっと借りてムースにする。
みんながうれしいムース。
これが締めです。

引用:76ページより

まだ作ってもいないのに、キャラメルの香りが漂ってきます。
この解説がないと、ただのキャラメルムースの作り方が載っているページです。
料理本では「おいしいのでぜひ作ってみてください」はよく見かける文章です。
特に感動もありません。
でも、「キャラメルにはチカラがある」と言われると、一気に深みが出るのです。

レシピ付きの詩集

料理本として読むと、解説文なので流し読みしてしまいます。
でも、詩集としても読むと、一言一句を味わうようになります。
この違いは大きいです。
レシピが付いた詩集だと思うと、楽しみ方は何倍にもなります。
ジャンルで括ってしまうのはもったいないのです。